短文集  「誕生日」


 私の誕生日は大正二年七月二十五日です。
来る七月二十五日で五十一歳になります。し
かも生まれた年は凶作であった。もちろんそ
の頃は電灯もない、ストーブもない、畳の上
に起伏した頃であり、ましてや農家は封建生
活で戦国の世そのままの姿だったろうと思わ
れる。
 私が生まれた時、母が産褥熱に冒されて生
死の境をさまよい、大騒ぎ、初子の私が死ん
でもたいした事はない、居きれば儲けものと
いうので、母のわきにオボギに入れておいた
そうです。乳もなければミルクもないまま三
、四日ほったらかさたそうです。
 ところが生命は根強いもので、今もぴんぴ

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んして孫もいる。不思議なものだ。母もまた

冷やされて水を飲んで生きた。いま七十三歳
で炊事万端その他に苦情を申し上げている。

 今になって私はたった一人の後継者だ。兄
弟がいない。そのとき私がなかったら父母は
孤独な老夫婦であったかも知れない。誕生日
は数奇な運命もっているらしい。

        昭和三十九年

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