短文集 「並木」


 黒船来訪で鎖国平和の夢が破れ、黒船旋風
が津々浦々を吹き巻き、やれ倒幕やれ尊皇や
れ国防とテレビの「竜馬」を楽しみに、昨年
の日曜日の夜を見逃さずに見ていたが、ふと
したことで暮れ十二月に北海道に行くことに
なった。そのとき白老町の近く国道から左へ
二キロ入った山に陣屋跡がありお堂が建って
いて、その道に植えた松並木の一部が今に残
って二十メートルの高さに聳えているのには
驚かされた。
 当時海防に派遣された武士たちがここに本
陣を構え、室蘭から日高釧路辺りまでの守り
に専念し、本陣街道には松並木を造成したと
思われる。そのうちの三本の松が今に残って

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大木になり、この荒涼とした北海の地に明治

百年の偉業を伝えているのの感じ入ったわけ
です。
 この辺りでは松はなかなか育たないと言
われ、そのため他に松らしいものは一本もな
い。今にして武士の意地、信念、生命のすべ
てが、この松の生命に乗り移っているかに、
蒼々として風雪に耐えている。

 漁休み浜の舟皆な雪被く
 朝まだき出舟の雪を払いけり

        昭和四十四年

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